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EYRIEが待望の名曲「Someday, Somewhere」リリース

バークリー音楽院卒の鍵盤奏者、作編曲家であるEIKOとRINAにより2021年に結成されたプログレッシヴ・ジャズ・ユニットがEYRIE。これまでに「43rd Sunset」「Victory Gir」の2曲をリリース。硬質な音の佇まいによる印象的なピアノリフを基調としながらもスピーディ、それでいて繊細なシーンも織りなしていくな楽曲展開で魅了していく楽曲だった。僕はそこにロックなイメージを感じていたし、ジャズどっぷりじゃないポップミュージック愛好家である僕なども聴き込みやすい音楽性でありとっつきやすかったのだが、デビューからずーっとEYRIEを追い続けてきた僕にとって待ち続けていた楽曲がついにリリースされた。それが「Someday, Somewhere」である!

EYRIEの基本的な演奏形態はEIKOとRINAによるピアノ連弾、もしくはシンセサイザー、3人目のメンバーである山近拓音のドラムによるトリオアンサンブルだ。つまりはベースレスなのが特色であり、硬質なピアノの低音リフのインパクトが増していたところもある。ABCテレビで放送されていた「秘密結社 鷹の爪」スピンオフTVアニメ「吉田勝子のヤバイわ!SDGs〜荒ぶる!トラブル!サステナブル!〜」のテーマソングに起用された「Victory Girl」はその象徴的な楽曲だった。が、「Someday, Somewhere」はこの路線とは一味違った彼女たちによる新境地と呼べる楽曲であり、EIKOによる胸が弾むような陽気で軽やかなピアノの旋律に、RINAのシンセサイザーがリードする温もりたっぷりのプレイがフィーチャーされており、拓音のドラムサウンドも軽やかな音像でまとめられた。さらに大きな話題となっているのが、ゲストベーシストとして佐藤征史(くるり)を迎えたこと。「Someday, Somewhere」はEYRIE結成以来、初のコラボレーションとなっている楽曲なのである。

EYRIEは2021年のフジロックフェスでライブデビューを果たしたユニット(これもかなり異例)だが、「Someday, Somewhere」はその時すでにまだタイトルがない状態でプレイされていた。“EYRIEのライブを観た、出会ったオーディエンスとまたいつかどこかで出会えたら”という気持ちが作曲時からあり、その後つけられたこの素敵な曲名に込められている。その後、Inter FM 897で毎週日曜日6:00より放送されている「Early Bird’s Music」で、2021年10月24で生放送されたスタジオライブ、さらに12月9日、六本木クラップスで行なわれた初ワンマンライブ“THE SEVENTH PLANET”で披露(配信もされたこのライブは、インストの配信ライブでは驚異的な観覧数を記録したそうである!)…というか、まだライブはこの3回しか行われていない。が、すでに「Someday, Somewhere」は最初にプレイされた時から、EYRIEの代表曲の一つになるだろうな、っていうオーラを僕は感じていた。

フジロックとスタジオライブではベースレス形態でプレイされていた「Someday, Somewhere」だが、佐藤征史(くるり)のベースが入ったことで冒頭に書いたような胸が弾むようなホットなバンドサウンドになった。佐藤征史がフレットレスベースをプレイしていることも、このサウンドの温かみを増長させている。EYRIEと彼のコラボレーションが実現するとはサプライズだったが、僕にとってくるりはかつて世武裕子を自身のレーベルからデビューさせたことも印象的だったので、EYRIEの楽曲は好きだろうなっていうのは想像できた。実際、EIKO+ERIKOの楽曲も聴いていたし、自身のラジオでEYRIEの楽曲もかけていたそう!

六本木クラップスでの初ワンマンでは佐藤征史もゲストで登場。「Someday, Somewhere」を共演したほか、くるりの「ばらの花」などをセッションするシーンもあった(これも名演だった)! そして特徴的だったのがRINAがROLANDのショルダーシンセサイザーAX-EDGEをプレイしている点。小柄な彼女がAX-EDGEを縦横無尽にプレイしている姿も見事で、ピアノで表現するのは難しい、ビブラートやピッチベンドを駆使したシンセプレイもまた、「Someday, Somewhere」の世界観に大きな影響を与えているのである。面白いのはRINAはレコーディングにおいてもAX-EDGEをプレイしている。わりとレコーディングでは普通にシンセを弾いて、ステージ用でショルキーを弾くってタイプの鍵盤奏者が多いというか、ほとんどだと思うのだが、RINAが弦楽器奏者のようにAX-EDGEを弾きまくるクールさもまた、EYRIEの武器だと思った。

「Someday, Somewhere」はMBSテレビの<MBSお天気部>冬のテーマ曲として、天気予報コーナーにて2月末までオンエアされているが、そうした番組のBGMなどにもぴったりだし、ベース入りバンドアンサンブルでありいわゆる通常のポップミュージックのフォーマットということもあり、普段あまりインストは聴かないという方も入り込みやすいのではないか。RINAのシンセソロの合間に繰り広げられるEIKOのピアノソロもまた煌きに満ちていて、YouTube公開されたライブ映像のイメージ然り、「Someday, Somewhere」にはキラキラしたイマジネーションが浮かぶのだ。普段の穏やかで愛らしいEIKOとRINAの人柄も伝わってくる素敵な楽曲に仕上がっている。EYRIEのコンセプトは“言葉のない音楽で物語を語る”。現在、さらに作曲とレコーディングに勤しんでいるEYRIEだが、2022年はますます物語的でサプライズ性たっぷりの楽曲を届けてくれそうだ。僕は今後もEYRIEを追いかけ続ける!(Player 編集長 北村和孝)

EYRIE「Someday, Somewhere」

“Player SPECIAL -Summer Issue- 魅惑のMuseたち”ではmetamorphose projectをたっぷりと特集。EYRIEの初ロングインタビューと共に、EIKO+ERIKOも取材している。今のところ、metamorphose projectについては世界一詳しい特集記事だと思うのでこちらもチェックしていただけると嬉しい。

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