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小比類巻かほるインタビュー「プリンスが、僕は彼女を プロデュースするよって」

日本語ポップスにR&Bエッセンスを加味した独自のスタイルを確立した小比類巻かほる(以下、Kohhy)。相変わらずの美貌とソウルフルな歌後の魅力は健在で、近年も精力的にライブ活動を行ないつつレコーディング作品をリリースし続ける。7月2日(日)Billboard Live YOKOHAMA、8月19日(土)丸の内COTTON CLUBで異なるコンセプトのライブを行なうKohhyに、画期的だったデビューからの足取りはもちろん、プリンスとのコラボレーションなどその唯一無二と言えるヒストリーをディープに直撃! そのインタビューの全貌は7月5日発売Player2023年Summer号掲載となるが、ここではプリンスとのコラボレーション部分をフライング公開!

Interview by TAKASHI IKEGAMI Photo by KEIKO WAKUI(WAKUI KEIKO visual design)

 ここで必ず聞かれるのはあの話だと思うんですけど。

プリちゃんですね。

 プリちゃんっていうんですか。マニアの方々に怒られますよ(笑)。

私、プリンスが“Love Sexy Tour”で東京ドームに来た時に、楽屋に行ったんですよ。そしたら、今日出るの?って言われて。もうすぐにここから逃げようと思った(笑)。マニアに殺されると思って。すぐにステージに出したがりますからね、プリンスは。

 プリンスはセッション好きですからね。

そうなんですよ。今となっては、出ておくべきだったかなと思いますけどね。私ね、何で一緒に写真を撮らなかったんだろうと未だに思いますね。後悔。

 プリンスって写真撮ってくれるんですか。

もちろん! フレンドリーですよ。でも私はそんな失礼なことしちゃいけないんじゃないかって思ったんですよね。それに、一緒に写真撮ったら、一緒にレコーディングしてるのにいちファンになってしまうと思って。ある日、プリンスが『バットマン』かなんかの録音でロサンゼルスのレコーディング・スタジオを取ってて、その後に私が同じスタジオ使うっていうときに、いろんな色のキャンドルがいっぱい並べてあるんですね。それで、ブースとコンソールの間にガラスが1枚あるんですけど、そこにロウソクで目が作ってあるんです。いつも見てるよ、みたいな感覚なんですね。そういう思いやりのある方なんですよ。それを見てちょっと安心しましたね。

 その目っていうのは、プリンスがいつも使うあのeyeマークですか。

もっとかわいらしい普通の目でしたよ。エジプトっぽいやつじゃなくて。

そもそも、プリンスと一緒にやることになったのはどういう経緯だったんですか。

シーラEの紹介でしたね。シーラが日本にツアーで来てるときに、ワーナーの紹介で楽屋にご挨拶に行ったんですね。今ちょうどレコーディングしてるんだって言ったら、次の日にスタジオに現れて、ずっとソファに座ってるんですよ。レコーディングになんないなーと思いつつ(笑)、ずっと話をしていたら、その数ヶ月後にプリンスのツアーで来た時に、プリンスを紹介してあげるから、今日コンサート終わったら、打ち上げ会場に来てって言うんですよ。

 すごい話ですね…。

そしたら、「I Know You」ってプリンスに言われて、どうしたこっちゃって思ったら、シーラが、実はね、あなたのビデオをみんなで見たのよって。コンサートのビデオよかったわよって。真っ青になっちゃった。そしたらプリンスが、帰りの飛行機のタラップ乗る前に、僕は彼女をプロデュースするよって言って帰ったんですって。

プリンスの方からやりたいって言ってきたってことですか?

オファーはこちらからしてますよ。一応、資料一式をプリンスの方に、ペイズリーパークに送ってあったので。なんですけど、びっくりしましたね。

 だって日本人で唯一ですよ。

そうですね。その後にすぐ(リリースされた)2曲が入ったデモテープが届いて、その後にもう1曲、さらにその後にもう1曲が来たのが「The Most Beautiful Girl In The World」って曲で、吹き込もうと待ち構えてたら、先にプリンスが出しちゃった。そうなると私のレコーディングはないんだなって。

 あれ? プリンスがそれ出したのはもっと後じゃないですか(プリンス版は94年)。

そのときもまだ交流があって、この曲にヴォーカルをダビングして送ってって言われてたんですよ。その1年後にプリちゃんがシングルで出しちゃったんですよね。なので、プリンスとはずっと繋がってて。

 プリンスのレコーディングってのはどんな感じなんですか。

日本には、マルチテープで音を劣化させたものが届くんですよね。コピーできないように、そういうテクニックがあって。なので、そのままだと歌のダビングができないから、まず自分達でピアノをダビングして、ピアノに沿って歌を歌うっていう、テクニックを使ってたんですよ。そこに声だけのバージョンとダビングしたやつを二つ揃えて、DATで送りましたね。

 ペイズリーパークのスタジオには行ったんですか。

1回行ったんですけれど、そのときはプリンスはいなかったんですよね。ものすごく寒かったのは覚えてる、ミネアポリスは。当時、彼は『バットマン』をやってたので、ハリウッドでプロモーション・ビデオとかを撮影してたんですね。私はその隣のスタジオで、「Dreamer」のプロモーション・ビデオを撮っていたんですけど、ダンサーの女の子が3人踊ってるんですよ。その女の子をプリちゃんが気に入ったらしくて、そのうちの2人が召し上げられて、ダイヤモンド&パールって名前になっちゃって(註:Lori ElleがDiamond、Robia LaMorteがPearl。プリンスのワールドツアー、“Diamonds and Pearls Tour”にダンサーとして同行)。気に入られちゃったみたい(笑)。

 プリンスのところで歌を録ったわけではなかったんですね。

やっぱり忙しすぎて、いないんですよ。歌録りなんて、そんなのもう勝手にやってくれみたいな感じだと思うので。

 プリンスって、そういう細かいところをあんまり気にしないイメージですよね。自分の音作りも、機材のプリセットをそのまま使っちゃう感じだし。

そうね、確かに。気にしないですよね。でもね、私は純粋にプリンスの音楽が好きだったので、まさかプリンスがコーラスで参加するなんて思ってもいなかったんですよ。「Mind Bells」に関してはちょっと衝撃的でしたね。あと、ペイズリーパーク・スタジオのエンジニアはめちゃくちゃ腕がいいですよね。「Cream」なんて聞いてると、本当にいい音だなって思いますもん。

 一方で、「Bliss」の方は結構ファンキーな曲ですけど、もしこの路線を極めたら、Kohhyさんは日本のジョディ・ワトリー的な感じになったんじゃないかなと思ってたんです。日本人でああいうタイプって未だに誰もいないですからね。

そうですね。結構いいかもしれないですね。モーリス・ホワイトとレコーディングしたときの話になるんですけど、LA暴動(92年)っていうのがあって。ジョディ・ワトリーとはそのときに初めてお会いしましたね。当時、モーリス・ホワイトのFifty Fiveっていうスタジオがあって、そこがすごく危ない地域だったんですよ。LA暴動の次の日に行ったらガラスが割れちゃってて、これはレコーディングどころじゃないぞっていう話になって、みんなでこの暴動を止めよう!っていう歌をラジオ局で流そうって集まったのが、ジョディ・ワトリーやアース、ウインド&ファイヤーなど、錚々たるメンバーでしたね。

 そこに参加して歌われたんですか。

いえいえ、私はそんなおこがましいことしませんよ。あんまり図々しいことは(笑)。あなたも入りなよって言われたらやりますけど(笑)。

 プリンスがきっかけなのかわからないですが、『Time The Motion』あたりから音が一気に黒くなった印象がありますね。

そうですね。やはりルーツ的なものがそこにありましたので。リズム・アンド・ブルース1本でいこうと思いましたね。

 80年代から90年代への転換っていうのは、リズムが8ビートから16ビートになって、縦ノリのグルーヴが横乗りになったっていう大きな違いがあると思うんですが、リズムへのこだわりという点ではいかがでしょうか。

ヒット曲って面白いもので、歌詞とメロディー、サウンド、リズム、いっぺんに降りてくるもんなんですよね。頭の中で作って行くときに、これとこれっていうイメージで組み立てていく。私達はよく言葉を編むって言うんですけど、編み物のように編んでいく作業が音楽を作ることなんじゃないかなと思っていますね。なのでリズムも、縦の糸か横の糸か、どんくらい引っ張るかとか、そんな感じですね。

 先に言葉が出てくるタイプなんですか。

先に出てくる感じですね。こないだ作ったアルバム『Kohhy5』(2019年)の「一期一会」もそうでしたね。あと「I Know Youありがとう」はプリンスをイメージして作ったので、同時に出た感じでしたよ。

 この時期の作品は、セールス的にも絶好調という感じですが、その中でも印象に残ってるものといったら何ですか。

やっぱりアース・ウインド&ファイヤーのモーリス・ホワイトとお会いできたのは、最大のいい思い出ですね。これもたまたまなんですけど、EW&Fで来日してたときに、レコード会社の人から、EW&Fの打ち上げに参加しない?って言われて。

 また打ち上げ繋がりですか(笑)。

私たちは名刺代わりにCDを持参するんですけども、私こういうものですって、モーリスに直接お渡しすることができたんです。後でレコード会社経由でプロデュースをお願いしたら、喜んでって言ってくださって。ロサンゼルスにずっといるっていう情報も伝わってて、それで行くことになったんです。

 それが『FRONTIER』(92年)のときですね。これは曲ごとに参加されてるミュージシャンが違いますが、ギタリストはEW&Fやコモドアーズにいた名プレイヤー、シェルダン・レイノルズですね。

はい。彼とはこのモーリス・ホワイトのセッションで出会った繋がりで、『Kaleidoscope』(97年)にも参加してくれました。『FRONTIER』のレコーディングは全部ロサンゼルスだったかな。

 その前の『DISTAИCE』(90年)と『silent』(91年)はいかがでしょうか。

『DISTAИCE』は、アンソニー・ジャクソンとかジェリー・ヘイとか入ってるから、ロサンゼルスですね。『silent』がロンドンのAIRスタジオかな。

 土屋昌巳さんを中心に、ミッキー・ギャラガーらが入ってますからロンドンですね。

あの時代のロンドンは、物価が高くて、失業率も高いっていう時代でしたね。AIRスタジオでは、隣でエルトン・ジョンさんがパジャマに帽子被ってピアノを弾いているのを見ましたね(笑)。

 音楽的にはグラウンドビートからアシッド・ジャズの時代で、けっこう面白かったんじゃないのかなと思うんですけど。

それがね、そういう音楽をやられる方って、海外に出ちゃうんですよね。街中では全く感じませんでしたよ。特にAIRスタジオはベテランのミュージシャンが多いというのもあるし。でも音はよかったですよ。AIRスタジオはマイクをスタジオのボードに直付けなんですよね。『Hearts On Parade』もロンドン・ミックス、ロンドン・マスタリングだったんですよ。倍音の響きがすごくまとまっていてクリアな印象がありますね。

 その後は『KOHHY 1』(94年)、『KOHHY2』(95年)が出ます。このタイトルにはどんな意図があったのでしょうか?

この頃、26歳で独立したのかな。それで、ブランディングで統一感を出すためにニックネームをタイトルにするのがいいかなって思ったんです。ホーン・アレンジのジェリー・ヘイを筆頭に、グラミーやエミー賞を何度も獲ってる名エンジニアのトミー・ヴィカーリのミックスで、R&B色を前面に出したアルバムですね。

 90年代の終わり頃にはReuy名義の作品が2枚出ます。これはどういった活動だったのでしょうか?


これはDJユニットと一緒に制作した作品ですね。後に『Kohhy3』(2016年)というタイトルでもリリースしています。

 一方で、『樹形図』(2011年)はさだまさしさんの曲を歌うなど、これまでとは違ったポップス路線の作品でした。

震災の時に、人と人とのつながりを木の枝のようなイメージで表現したいと思って作った作品ですね。なので、バラード路線でまとめています。

 『KOHHY4』(2018年)と『KOHHY5』(2019年)と、『樹形図』に近い路線が続いていきますね。

究極のメロディを突き詰めると、バラードが残ると感じてたんですね。『KOHHY5』からは、35周年の時に出した『Ballad Best』へと繫がっていって、バラードの集大成のような形になりました。

 そして、新作コンピレーションの『DREAMIN’23』(2023年)には、シティポップというワードが入っていますね。どういったコンセプトの作品集なのでしょうか。

先にも言ったように、私が自分でリマスタリングしてるんですけど、それぞれの作品にはその時代ごとの熱があって、街を抜ける風のようなチカラがあると思うんですね。私にとってのシティポップとは、そんな疾風の如く廻転して心に残るものと感じています。

 『KOHHY5』ではデズリーの「You Gotta Be」をカヴァーしていました。またR&B路線の作品を作っていくのでしょうか?

今、ニューアルバム『Kohhy 6』の制作に向けて、70年代から80年代のR&Bテイストの曲を中心に書いています。またR&B路線の作品を作っていきますよ。

さて、最近ではビルボードライブやコットンクラブなどのクラブでのライブにも積極的な印象がありますね。

こんど予定されているビルボードライブとコットンクラブの内容は全く違っていて、ビルボードライブ横浜は、割とバラードが中心になると思います。夏に向けて涼しい感じが出るかな。コットンクラブは『DREAMIN’₂₃』でいきます。ちょっと激しめな曲が多くなると思いますね。そのどちらも私の大事な一部分なんです。

小比類巻かほる

『DREAMIN’23 city ​​pop selection remastering』

https://www.kohhy.co.jp/

Live Schedule

Member:小比類巻かほる(vo)、寺地美穂 (sax,cho)、竹越かずゆき (key,cho)、水上寿美江 (vl,cho)、森本隆寛 (g)、高野逸馬 (b)、町田孝 (ds)

 

2023年7月2日(日)Billboard Live YOKOHAMA

1st Stage Open 14:00 Start 15:00 / 2nd Stage Open 17:00 Start 18:00

Service Area : 税込7,500円 / Casual Area : 税込7,000円

INFO 0570-05-6565

 

2023年8月19日(土)丸の内COTTON CLUB

1st Stage open 16:00 start 17:00 / 2nd Stage open 18:30 start 19:30

テーブル席 : 税込8,000円、ボックスシート・センター (2名席) : 税込10,500円、ボックスシート・サイド (2名席) : 税込9,500円、ボックスシート・ペア (2名席) : 税込10,000円、ペア・シート (2名席) : 税込9,000円

INFO 03-3215-1555

 

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