2020年初頭に発表されたVOX Bobcat(ボブキャット) V90/S66。元々1960年代中期に発売されたイタリア製ギターで、1966年の同社カタログに掲載され、その際にアメリカ市場でデビューした。この頃、ボブキャットの他に、ニューオリンズ、スーパー・リンクス、スーパー・リンクス・デラックスという4つのシンボディ・セミホロウ・ギターがラインナップされていた。その中のスーパー・リンクス・デラックスの3ピックアップ・バージョンがボブキャットであり、当時の同社ラインナップの中ではリンクスと人気を二分する存在だった。
薄いボディ厚のダブルカッタウェイ・シェイプ、Fホールが開けられたセミホロウ構造ボディからはギブソン ESシリーズからの影響が色濃く反映されているものの、当時のセミホロウ・ギターでは珍しい3つのシングルコイル・ピックアップを搭載していたことがボブキャットの最大の特徴だった。
そんなボブキャットのヴィンテージ・フィール溢れるルックスはそのままに、弾き心地とサウンド、ハードウェアなどを見直して、現代的なシーンでも対応できるギターとして新たに生まれ変わったのがボブキャット V90/S66である。
このボブキャット V90/S66の開発を指揮したリッチ・ラスナーへのインタビューをお届けしよう。彼は1970年代にMung Musical Instrumentsというベース・ブランドを設立し、1980年代中期よりアイバニーズやヤマハ、ピーヴィー、Line 6などでギター開発を行ったり、コンポジット・アコースティック・ギターズやフェンダー、ディマジオでもコンサルタントを担当していた。1995年から2002年までモジュラス・ギターズの社長兼最高技術責任者を務めており、現在はVOXのギター専門開発担当/副社長として、かつてLine 6で共に働いてきたエリック・カークランドとボブ・ドナルドの3人で開発チームを組んでいる。彼らは3種類のトーンが切り替えられるピックアップを搭載したヴィラージュ、近未来的デザインと多彩なモデリング・サウンドを内蔵したスターストリームといった画期的なVOXギターを開発してきたチームである。
従来のセミホロウ・ギターと比べて、サウンドに多様性を持たせることが開発における重要な要素でした
ーあなたは90年代初頭に「Tek Tone」というギター・プロジェクトを起ちあげた際、古いVOXギターにインスパイアされたモデルを開発したそうですね。60年代のVOXギターに興味を持ったきっかけは?
フェンダーとギブソンのギター・デザインがスタンダードなものとして定着する以前の、1960年代に作られた珍しいギターにずっと興味を持っていました。私はニュージャージーにあるダンエレクトロとギルドの工場の近くで育って、そこで多くのダンエレクトロとギルドのギターを分解して、その構造を理解してギターがどのように機能するのかを学び始めました。60年代のVOXギターは常にユニークな機能美を持っていて、オンボード・エフェクトやビブラート・テイルピースを備えたエレクトリック12弦モデルなど、革新的なアイデアを取り入れていました。中でもマンドギターのオクターブ12弦に興味をそそられたことが、Tek Toneラインを作るきっかけとなりました。このTek Toneは、バリトン・ギター、マンド・ギター、フルスケールの12弦ギター、通常の6弦ギターが製作ラインに含まれていて、あらゆる種類のギター・サウンドをカバーできて、しかもギタリストであれば誰でも演奏できる楽器を提供するというプロジェクトでした。
ーヴィラージュやスターストリームのような最先端の技術やアイディアを取り入れたギター開発に定評がありますが、今回はボブキャットのようなヴィンテージ・テイストの強いギターをデザインした理由は?
私は現代の音楽シーンに対応できるギターを製作することで、VOXの偉大なる歴史をもっと世界に知らしめたかったのです。新たなボブキャットのコンセプトは、オリジナル・モデルの本質的なディテールを取り入れつつ、構造や電子パーツ、サウンド、弾き心地といった面を改善することでした。
ーセミホロウ・ギターをデザインする上で特に重視している点は?
トラディショナルなセミホロウ・ギターのボディ構造はブランドごとに大きな違いはないので、ネックの感触や重量、内部構造、トーンなどで差別化を図る必要があります。たとえば、ボブキャットには重量を軽減したスプルース製のセンターブロックを搭載しており、フルサイズのセミホロウとしては非常に軽量です。センターブロックを加工する際には、ボディの共鳴を慎重に考慮しながら求めているトーンを追究しました。以前にヴィラージュのセミホロウ・ギターを開発した際に、センターブロックの質量と共振について多くのことを学びました。ギターの総重量を軽量化し、フィードバックが発生しやすい特定の音域を取り除くために、センターブロックには軽い素材であるスプルースを選択しました。
ーV90ピックアップとセミホロウ・ボディとを組み合わせるために工夫した点は?
ピックアップのボイシングも重要な作業でした。ピックアップはクラシックなシングルコイルとP-90スタイルのトーンが出るように設計しましたが、セミホロウ・ギターにハムバッカーを搭載した時に発生しやすい音の濁りを取り除いて、さらにピッキング時の音の明瞭度を高めるために、高音域の倍音成分が豊かになるように設計しました。というのも、セミホロウ・ギターで一般的なP-90を搭載してテストしたところ、音自体は良いのですが、高音域がややダークで、我々が望む明るいアタック感や煌めくようなハイエンドのトーンは再現できなかったのです。そこでポール・マグネットを使用してみたところ、太くて暖かいトーンでありつつ、その狭い磁場によってハイエンドにフォーカスしたトーンが実現できたのです。
VOXギターは実にユニークなポジションを確立しています
ーS66に搭載された3つのシングルコイル・ピックアップの特徴は?
我々の開発チームでは数多くのヴィンテージ・ギター、およびヴィンテージ・スタイルのシングルコイル・ピックアップの音を聴き比べて、S66に最適な出力やトーン・シェイプ、ピックアップ間の相互作用のバランスを見つけ出しました。そしてヴィンテージのストラトキャスターの特徴に近いながらも、より高出力で暖かいミドルを備えた設計に落ち着きました。S66のもう一つのクールな機能は、ミドル・ピックアップが独立したボリューム・コントロールです。これにより、2ピックアップのギターと同じように3ウェイ・トグルでミドル・ピックアップを任意のトグル位置に切り替えることで、従来のセミホロウ・ギターにはない独特なサウンドの切り替えを実現しました。
ーボブキャットはセミホロウ・ギターながら、GIBSON ES-335のような太く滑らかなトーンとは異なりますが、どんなキャラクターを目指しましたか?
現代のギター・ミュージックを数多くチェックして、ギタリストが求めているサウンドをカバーできるようにトーン・キャラクターの方向性を定めました。リッケンバッカーのような明るくジャングリーなトーンや、フェンダー コロナドや古いハーモニーとケイのようなやや異色なギターが、ハムバッカーを搭載したセミホロウ・ギターでは対応できない高音域をカバーするために使用されていたことがわかりました。私たちが追求したピックアップ・サウンドの中からギタリストが好みのものを選んでもらえるように、今回のボブキャット 2モデルではそれぞれ異なるピックアップを採用することにしました。
ーボブキャットは特定のジャンルやギタリストが使うことを想定してデザインしたものですか?
従来のセミホロウ・ギターと比べて、サウンドに多様性を持たせることが開発における重要な要素でした。一般的なセミホロウ・ギターのサウンドや弾き心地は私も大好きなのですが、ボルトオン・ジョイント/シングルコイル・ピックアップ/ソリッド・ボディのギターを好むギタリストをターゲットとして逃しているとも感じていました。 一部のギタリストにとってセミホロウ・ボディは大きくて弾きづらいと感じるようですが、我々のテストに参加した多くのギタリストからは、フルサイズのセミホロウでも弾きやすければ、様々な場面に対応できる幅広いサウンドを生み出すボブキャットに魅力を感じるという回答が得られました。我々はあらゆるジャンルのギタリストがボブキャットを使用して音楽を表現してくれることを願っています。
ー今後、どんなギターをVOXブランドで展開していこうと思いますか?
VOXギターは実にユニークなポジションを確立しています。今回のボブキャットのようにブリティッシュ・インヴェイジョン時代に生まれたクラシックなギターを新たに作り直したり、我々のギターに関する専門知識とコルグのエレクトロニクス技術と組み合わせて、ヴィラージュやスターストリームのような革新的なギターを生み出してきました。VOXギターは一部の伝統的なギター・ブランドのように特定の型に嵌っていないので、様々なデザインにチャレンジすることができます。我々は多彩な方向性を考慮して、VOXブランドにふさわしいアイデアを今後も追求していきます。
※本記事は月刊Player 2021年1月号特集を再編集したものです。
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