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Sadowsky Bass サウンドチェック / 田中晋吾

“サドウスキーらしさ”っていう、 いい感じで前に出てくる音があるんです

田中晋吾

ここからはプロ・ベーシストによるサドウスキー・ベースのサウンドチェックをお届けしよう。渡米後、ジャズやラテン、ソウルなど様々なジャンルの音楽を経験し、2005年からT-SQUAREへのサポート参加を始め、東儀秀樹、古澤巌、coba、相田翔子、河村隆一、Little Glee Monster、ジェロ、マリーン、上原ひろみ、絢香、東方神起、ゴスペラーズ、加山雄三、初音ミクなど、ライヴからレコーディングまで幅広い現場で活躍しているベーシストで、以前からサドウスキー・ベースを愛用している田中晋吾に、MetroLine 21 Fret Vintage J Bass 4stringMetroLine 21 Fret Vintage J Bass 5stringMetroExpress Vintage JJ の合計3モデルを試奏してもらった。

ブレないですよね、サドウスキーは

ー現在、メインで使用しているベースは?

1972年か74年製のフェンダー・ジャズベースと、サドウスキーTYO(以前の輸入代理店が展開した日本製ラインナップ)の4弦フレットレス、同じくサドウスキーTYOのRB-5っていう多分マーカス・ミラーが好きな人に向けて作られた期間限定モデルと、サドウスキーNYC(ニューヨークで作られるカスタム・ライン)の5弦モデルです。

ーフェンダーとサドウスキーはどのように使い分けていますか?

5弦でしっかり鳴らしたいというか、明瞭な音像で聴かせたい時はサドウスキーNYCの5弦が多いですね。一つのライヴだと2、3曲でスラップを弾く曲があって、そっちがメインになるような時にはフェンダーを使うことが多いです。例えばT-SQUAREでソロを弾くのにちょっと線が細くて物足りないって時だと、フェンダーの方が低音が出ながら1弦でもソロが取りやすいんです。でも、歌の仕事やセッションとかツアーとか、ほとんどの現場でそこまでソロを弾くことはないので、やっぱりサドウスキーの方がオールマイティに対応してくれるし、プリアンプも癖がないから綺麗に発音してくれるんです。他のベースだとローBを弾いた時だけ音の世界観が違って聴こえるような感じが結構あるんですけど、サドウスキーはローのBやCを出しても周りに悪影響があまりないし、そこは上手いこと対処してくれてて。JBタイプの5弦って使うのが大変なんですよね。ソープバー・ピックアップだと上手くコンプが掛かったように綺麗な音量感で出てくれるんですけど、JBタイプのピックアップって、1弦の高い音と5弦の低い音を同じマグネット・バーで一緒に出すのは本来ちょっと無理があって、絶対に5弦の方が太くなって音量もデカくなるんです。でもサドウスキーはそこが聴感上バランス良く出るんですよね。それが重宝されてる理由なんだと思います。

ーサドウスキー・ベースというとまずどんなイメージを持っていますか?

僕が持ってるサドウスキーはハイファイっていうイメージがあって、上がシャキっと持ち上がるから、弾いた時のフレット・ノイズも結構カチッと聴こえるんですよ。それがちょっと苦手で、アンプの方でその部分をカットしたりするんです。僕はアンプはフラットな時の音がアンプ・メーカーが本来出したい音だと思ってて、ベースも同じでできるだけフラットな音で出して、そこから「ここがちょっとキツイな」って時に下げる方向で使うんです。サドウスキーはハイファイなイメージを生かしつつも、“サドウスキーらしさ”っていう、いい感じで前に出てくる音があるんですね。例えば古いフェンダーだと下は出てるんですけど、音が引っ込んじゃうことがあるんです。でもサドウスキーはそういうことがない楽器だからとても素晴らしくて、そういう意味でのハイファイだと思っています。

MetroLine 21 Fret Vintage J Bass 4 String

MetroLine 21 Fret Vintage J Bass 5 String

ードイツ製のMetroLineを弾いた印象は?

最初はTYOと比べちゃうんだろうなって思ってたんですけど、正直目をつぶって弾いたらネックの感触とかも全部一緒なんで、違いは分からないです。木の採寸とかカッティングがほぼ一緒だと思うんですけど、以前とは細かい違いはありますが思った以上にいい楽器だなって。今弾いた中だったら、僕はダントツでMetroLineの4弦が好きですね。一番の理由は音色がローもハイも綺麗に出るところで、それはもしかしたらロー・アクションのせいもあるかも知れないですけど。

ーあとはフロント・ピックアップの音を気に入ってましたね。

以前のサドウスキーって、フロントは高めにしないとリアの方が目立って細い音のイメージだったんですね。それがコレはフロントの高さを下げてもしっかりブリブリした音が出てくれて、いい意味でフェンダー好きの人にも使いやすい楽器になったと思います。コレは弾いてもらえれば、絶対分かると思います。

ーフロント・ピックアップからはプレシジョン・ベースっぽいニュアンスも出せるとも仰ってましたね。

以前のサドウスキーもフロントでプレベっぽい音色がちょっとは出るんですけど、どうしても音量も下がっていたんですね。コレは少し高さを下げてもまだフロントの方が音量が出てたんで、いわゆる太い音が好きなベーシストにはいいと思います。

ーJBタイプのベースだと、フロントとリアのピックアップの出力バランスはどの辺りに調節することが多いですか?

基本的にはセンターです。スラップした時にはセンターが一番いい音がしますしね。それはどの楽器も変わらずで。いわゆる昔のラリー・グラハムみたいな、ちょっとイナタイ感じのスラップの音が好きだったらフロントで弾くんですけど、コレはフロントでもセンターでもどちらでも使えると思います。

ー近年のベースのアクティヴ回路は3バンドEQでブースト/カットできるものが主流ですが、サドウスキーの2バンドEQでブーストのみというのは使い心地はいかがですか?

ブレないですよね、サドウスキーは。でも僕はそれがいいと思いますね。元の楽器の音に対して削るものっていうのは基本的にはないと思うし、ちょっと音が痛い時はアンプで削ればいいので。ベース本体で音をいじりすぎちゃうと、PAのエンジニアさんの方で音が抜けなくなることが多いんですよね。僕がアンプで聴いてる音と、エンジニアさんに送られている音は一緒のはずなんですけど、全然違う音に聴こえてて、多分ベース・アンプの癖とか音量が原因だと思うんですけど、音量の違いで同じ音質でも全然違く聴こえるんですよ。僕は音が痛いなっていう時はアンプのハイをちょっと下げるんですけど、ベース本体の音はできるだけフラットにして変えないようにしてます。真ん中とか上を削ったりしてPAに送ったこともあるんですけど、いい結果は一回も得られなかったですね。

ーロジャー・サドウスキーさんも以前あるインタビューで、PAエンジニアが扱いやすくて、ライヴ会場の観客にとっていい音を目指していると語っていました。

そうでしょうね。ちょっと上がシャキッとした、いわゆるハイファイな音の方がオケと混ざった時に「ベースもちゃんといるね」っていう音になってくれますね。僕はちょっと足りない時に、時計でいうと1時間分ぐらいブーストするぐらいなんです。昔はもっとブーストしてたこともあって、エンジニアさんは文句は言わないですけど、外に出るPAの音がボヤッとするから多分何を弾いてるかよく分からないと思うんですよね。なので、ほぼベースの素の音にハイファイ・スイッチを入れただけぐらいでPAに送るのが一番いいですね。

ーパッシヴの音はいかがでしたか?

僕はベースの素の音がこれなんだろうなっていうチェックのために、まずパッシヴで弾いてピックアップの高さを決めるんですね。プリアンプを入れると低い弦の下が出やすいんで、パッシヴにして「歪まないな」「下が出てるな」「上が出過ぎてないかな」とかをチェックして、それからプリアンプのスイッチを入れて弾いて確認して、みたいな感じで使ってます。ライヴの中でパッシヴを使うことは結構少ないですね。アクティヴから切り替えると急に音量が下がった印象になるから、それだったらプリアンプを入れたまま優しく弾いた方がいいですね。

MetroExpressは新しいブランドの一つにもなり得るような感じですね

ーMetroLineはボディがチェンバード加工されているのですが、通常のソリッド・ボディと比べて違いは感じましたか?

僕が持ってるNYCはチェンバードなんですけど、TYOはソリッドなのでやっぱり重いですね。今言われて思い出しましたけど、このメトロラインはNYCと同じ軽さでめちゃくちゃいいですよ。ライヴとかでプレイするには、僕としては、今までのサドウスキーと全く変わらないのですごい弾きやすいです。

MetroExpress Vintage JJ 4 String

ーMetroExpressの価格と品質のバランスはいかがでしたか?

値段を考えるとすごく良くできた製品だと思いますね。サドウスキーが気になる人だったら、ぜひ弾いてほしいレベルですよね。ただ、MetroLineとは木の切り方とかがちょっと違ってて、いい意味で弾いている感触もちょっとだけゴツいんです。サドウスキーとはちょっと違うものかも知れないですけど、もしかしたらMetroExpressは新しいブランドの一つにもなり得るような感じですね。TYOとNYCを使っている僕からすると、やっぱりネックの感じとかが違うんですけど、別の工場で作ってるから変わるのは当然なんですよね。逆にMetroLineの方は以前とほとんど変わらないからすごいです。

ー従来のサドウスキーのイメージを持ってるベーシストに対して、ドイツ製のMetroLineはどんな点がアピールできると思いますか?

今までのサドウスキーを求めてて、MetroLineを買わないっていう風にはならないと思うんですね。ナットの違いとかも含めて、自分的にはむしろちょっと良くなったなって思うし、フロント・ピックアップの音量が大きくなったことは、僕にとってはすごく弾きやすいですね。ピックアップの高さ調整と弦高の調整だけで出したい音像にできると思います。

ー逆にサドウスキーを全く使ったことのないベーシストにはどんなところがアピールできますか?

いわゆるハイエンド・ベースっていうものの基準になれるベースだと思うんです。以前までのサドウスキーを知らない人には、いいベースですよって紹介できると思うんで、知り合いとか僕の生徒にも「ちょっと弾いてみなよ、コレ」って薦められますね。

ーサドウスキーはある意味フェンダー・ベースを進化させる形で完成していったとも言えますが、特にどんな点が使いやすくなったと思いますか?

やっぱり上手くできてるなって思うのが、ボディがバレないように小振りなってるじゃないですか。それでさらにチェンバードにしたりとか。ネックの厚さもそうなんですよね。フェンダーっていい音がするんですけど、ベースは特にゴツイんですよ。弾いてて気持ちいいんですけど、一つのライヴをぶっ通しで弾くと結構疲れるんです。そういうところがだいぶ解消されてますよね、サドウスキーって。前はNYCしかなかったはずなんですけど、このMetroLineの値段でチェンバード・ボディになってるのはすごいことだなって思います。プレイヤビリティはいいですよ、サドウスキーは本当に。だから人気があるんじゃないかなって思うんですけどね。僕らの世代でジャズベースが好きだったら、多分フェンダーもサドウスキーもどっちかは持ってると思うんです。マーカス・ミラーとかウィル・リーとかがお世話になっているっていうこともあって、憧れのブランドでしたからね、サドウスキーは。

Interview & Photo by TOSHIHIRO KAKUTA / Product Photo by TOMUJI OHTANI

※本記事は月刊Player 2021年11月号特集を再編集したものです。

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製品問い合わせ:株式会社山野楽器 商事部 海外営業部
☎︎03-3862-8151
https://www.sadowsky.jp

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