大江千里、意外にも初のシングルコレクション『Senri Oe Singles ~Special Limited Edition~』
Sony Music Direct MHCL-30713 6月22日 16,250円(税込)※通常盤二枚組CD仕様の『Senri Oe Singles ~First Decade~』はMHCL-30718~30719 3,850円(税込)
デビュー40周年に突入、現在はNYを拠点にジャズミュージシャンとして意欲的に作品リリース、執筆活動や演奏活動も精力的に行っている大江千里。本作は意外にも初のシングルコレクションで、1983〜1992年のシングルをまとめた通常盤二枚組に加えて、本作は1993〜2007年も二枚に分けて追加収録、提供楽曲のシングルを集めたボーナスディスクも追加した豪華5枚組ボックス仕様だ。「十人十色」「きみと生きたい」「YOU」「GLORY DAYS」「dear」「あいたい」「格好悪いふられ方」…数々の代表曲シングルは言わずがな、近年では「Rain」が様々な人にカヴァーされたことでスタンダード化。本作の前に7”レコードでシングルカットされており、ここではディスク2に収められた。
千里さんのデビュー当時のキャッチコピーの一つが“ポパイ少年”だった。シングルの数々を年代順に聴いていくと、それこそポパイ少年が大人の男性へと移り変わっていくドキュメントのようでもあり、その都度採り入れられる新たな語彙で育まれていく歌詞に何度ドキリとさせられたことか! さらには時代的に『Power』『Bedtime Stories』のような12inchシングルだったり、「ロマンス」「これから」「HYPERACTIVE DINOSAUR」、そして「静寂の場所」などアルバム未収録のシングルのみの発表曲が多かったことも思い出す。個人的にSTATION KIDS RECORDS時代のピアノロックスタイルも刺激的に思っていただけに、ある種歌うことを封印してジャズの道に挑んだ当初はうまいこと両立していけないのかな?などとも思っていたが、僕自身もアラフィフになって、こういう年齢になってさらに新たなことを成し遂げるって尋常な覚悟とか気迫だけでは成し遂げられないことも思い知る。
もちろん、本人的にはまだまだ現時点が到達点だなんて思っていないだろうし、コロナ禍で計算が幾分狂ったところはあるかもしれないものの近年の傑作続きを見るに、むしろこれから面白いことが待ち受けているのだと思う。ローティーンから追いかけてきた1ファンとしては、『answer july』『Hmmm』『Letter to N.Y.』なんて期待以上のジャズ・クロスオーバーミュージックで、よりアップトゥデートに進化し続ける大江千里の凄まじさ、自由度あふれる音作りを魅せけられた想いである。特に近年の千里さんの音楽を聴いていない人は、『answer july』辺りを聴いたら相当驚くはず。と同時に、不思議なことに僕自身の理解力も上がってきたせいなのか、多彩な音楽性を盛り込んでポップテイストも加味した『Letter to N.Y.』なんて愛聴していると、00年代までの日本語ロック・ポップスのシンガーソングライターと、渡米後のジャズミュージシャンとしての道をどこか分けて聴いていたものが、いつの間にか一線上で聴けるようになっていた。『Senri Oe Singles』の楽曲を改めて聴いていると、独自のソングライティングによる普遍性と唯一無二の歌声を堪能すると共に、NYでの活動へ至るまでの変遷が今だと理解できる。(Player編集長 北村和孝)
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