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革新的デザインのマーティン・ギター『MARTIN SC-13E』

今年のNAMM 2020で発表されたマーティンのニュー・モデルが日本に上陸した。左右非対称ボディにヒールレスのボルトオン・ジョイント、ボディ・バックのXブレイシング…これまでのマーティン・ギターのみならず、数多くのアコースティック・ギターと比べても、そのデザインは極めて斬新である。このマーティン SC-13E。その全貌をここに解き明かそう…

MARTIN SC-13E

価格=250,000円(税抜/ソフトシェルケース付)

 

SC-13Eは幾つもの斬新な試みが導入された新しい世代のエレクトリック・フラットトップである。このギターの大きな特徴は、“エレクトリックを前提とした新しいギター”として開発されていることにある。まず驚くのは、ボディがアシンメトリー(左右非対称)・デザインであること。数年かけて開発されたというこのシェイプは、特にエレクトリック・ギタリストが立ってプレイしたときに、心地よく体にフィットするバランスを想定して作られている。ネックが13フレット位置でジョイントされていることも驚きである。多くのマーティン・ギターは14フレットの位置でジョイントされているが、このギターではプレイ・バランスに加えて、1弦側に作られた深いカッタウェイで失われたボディ容積を取り戻すために、高音弦側のボディ・エンド部を大きくした上で、低音弦側のジョイント位置を移動させているのだろう。

サウンドボード裏側に取り付けられた“トーン・テンション・X ブレイシング”もSC-13Eに合わせて作られた新しいデザインである。メインのX ブレイスはサイドから厚みを落とした山型断面に加えて、ボディ・エンド側にかけて上面が徐々に落とされている。トーン・バーは全体が左右非対称の山型で、サイド・ブレイスは特に薄くなっているなど、今までのマーティン・パターンとは大きく異なっている。ギター・トーンは澄んだ高音域を備えたマーティンらしい音色なので、ボディの特性に合わせながら同時に開発されたものだろう。12フレットやサウンドホール・ロゼット、バインディング等には、このモデルが新しい時代のフラットトップであることを象徴するように、これまでのマーティン・ギターではほとんど見ることが無かったブルーが効果的に使われている。

 サウンドホールから見えるボディ・バックのX ブレイスもユニークだ。本来、ボディ・バックは共振を止めて音を反射させる役割が大きく、ブレイシングの影響はそれほど大きくないと思われる。これは19世紀半ばに独自のX ブレイシングを開発して広めてきたマーティンのプライドを形にしたもので、ドーナッツ・レコード・ラベルを模したマーティン・ラベルがそれを引き立たせている。

サウンドボードやブレイシングにはスプルースが使用され、ボディのサイド/バックにはハワイアン・コアでアフリカンマホガニーを挟み込んだ構造の、“コア・ファイン・ベニヤ”が使用されている。美しい木目に加えて、奥行きや音像もはっきりとしており、新しいデザインのギターながらマーティン直系のサウンドに仕上げられている。ネック・ジョイント部のカッタウェイ部分には、ボディに組み込まれたジョイント・ブロック、そしてバック材のハワイアン・コアとアフリカン・マホガニーがごく薄い3ピース・プライウッドに加工されていることが確認できる。ボディ全体は、美しい木目を生かしたグロス・フィニッシュで仕上げられている。

ボディ・デザインと並ぶこのギターの大きな特徴が、2本のボルトを使ったネック・ジョイント機構である。“シュア・アライン・リニア・ダヴテイル・ネック・ジョイント”と名付けられたこのシステムの目的は幾つかある。ひとつは、従来のグルー(接着剤)によるダヴテイル・ジョイントに劣らない強度と豊かな振動伝達を前提としながら、自由にネック角を調整できることである。そして、ネックのヒール部分をなくし、更にジョイント部のボディ側を斜めにカットすることで、最終20フレットまで無理なくプレイできる優れた演奏性を実現している。強固なジョイントと、弦高調整のためのジョイント角度の変更。これら二つの難題をクリアするために生み出されたのが、この新しいダヴテイル・ジョイントなのである。ダヴテイルは本来、接着断面を台形に加工することで接合強度を高める方法である。しかし、このギターのダヴテイル・ジョイントは従来のものとは大きく異なっている。2本のジョイント・スクリューを回すことで、ダヴテイル形状の接合パーツがネックをボディ側のジョイント・ブロックへと引きつける仕組みになっている。広い面で圧着された接合パーツとネックからは高い強度が得られる。また、ジョイント・スクリューを緩めることで自由になった接合面は、ボディ側からセットする専用シムの厚みを変えることで、強度を保ったままセット角度を変化させられる。セット角を調整しても、ネックとダヴテイル状の接合パーツは常に同じ面積で圧着しており、ジョイント強度とネック/ボディ間の振動パターンが変わらないことがこのジョイント・システムの大きなアドバンテージといえるだろう。さらにこのシステムはセット角に加えて、ネック・ブロック側にセットされたネジを回すことでイントネーション調整が行えるのである。なお、ネック角度の調整作業は、交換用シムと技術を備えた正規ディーラーのリペアマンが行うことを推奨している。もちろん、ネックには反りを調整するためのアジャスタブル・トラスロッドも内蔵されており、同時に両方の作業を行うことになる。

エボニー・フィンガーボード/25.4インチ・スケールが採用されたネックのナット幅は1-3/4インチ(約44.5ミリ)。“ロー・プロファイル・ヴェロシティ”と名付けられた新たなグリップは、エレクトリック・ギターと違和感のないほど薄く仕上げられたラウンド・タイプで、ハイポジションにかけて少しだけ厚みの増すハイ・パフォーマンス・テーパーに仕上げられている。また、ネック全体は薄いマット仕上げが施されている。

シンプルながら自然なアコースティック・トーンで高い評価を受けるフィッシュマンのアンダー・サドル・ピックアップ、サウンドホール内側にはボリューム、トーン、そして位相切り替えスイッチが組み込まれたMX-T プリアンプ・コントロールが組み込まれている。また、プレイヤーがギターを抱えた際にサウンドホールを覗いて見える位置(1弦側)には、チューナーもセットされている。

Text by JUN SEKINO

●ネック:セレクト・ハードウッド ●フィンガーボード:エボニー ●ボディ:シトカスプルース・トップ+コア・ファイン・ベニヤ ●スケール:645.2mm ●フレット数:20 ●ピックアップ・システム:フィッシュマン MX-T ●ブリッジ:エボニー ●チューナー:ニッケル・オープンギア ●フィニッシュ:グロス

 

問い合わせ:株式会社黒澤楽器店

☎︎03-5911-0611

Martin Club Japan | マーティンクラブジャパン
マーティンクラブ・ジャパンは、1989年に日本にて発足したマーティン・ギターを愛する方々のクラブです。マーティン・ギターが日本の音楽ファンに与えた影響は大きく、今の日本の音楽文化の礎ともいえます。マーティンクラブ・ジャパンは、日本の音楽文化を支える幅広い世代との交流を深め、音楽の素晴らしさを体験できるクラブとして多くの...
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