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PRS GUITARS 35th Anniversary Special 〜野村義男 PRS インタビュー&コレクション

日本を代表するセッション・ギタリストであり、ギター・コレクターでもある野村義男。彼のコレクションは多岐に亘るが、ことPRSに関しては一時期20数本を所有していたという。現在もライブで愛用するメインギターの中心がPRSである。野村はPRSに限らずヴィンテージ以外のギターを自分好みにアレンジすることがよくあるが、彼のトレードマークであるPRSのウルトラQには、ギターに対する強い拘りと深い愛情が溢れている。数あるPRSコレクションの中から、ベスト6を本人に紹介してもらった。

 

Interview

●最初にPRSギターを見た時のことを覚えていますか?

昔新宿にKEYのインポートマートというお店があって、そこで当時の輸入代理店の人が販売することになったPRSのギターサンプルを持って来てたんです。まだ日本では誰も知らない頃、90年頃かな…。でもその頃の僕は、フェンダーやギブソンが大好きだったので、正直ピンと来なかった。でもその時見たゴールドの10トップが凄く印象的で、塗りつぶしたトップの横から凄い杢目のメイプルのナチュラルバインディング見えていて…、…あれ? 実は同じ頃に青山のカワイ表参道で、サンタナ本人が使っていたというPRSのWネックが売りに出ていたんですよ。それもかなり衝撃を受けたんだけど、どっちが先だったかな…。

●最初に購入したPRSは?

97年に買ったグレーブラックのカスタム24の10トップ。その時斉藤ノヴさんと一緒に『A・R・O』っていうアルバムを作って、それをライブで再現することになったのでPRSを買ったんです。アルバムの半分くらいがサンタナの曲だったから。

●サウンドはいかがでしたか?

HFSというピックアップが付いていたんだけど、それがギターの概念が大きく変えてくれた。それまではギターの種類に関係なく、カッティングの時はリア、ソロはフロントで弾いていたわけ。だから、トグルスイッチをボリュームよりも近い位置に改造したギターまであって。でもそのHFSはリアのままソロを弾いても音が痩せないの。「なんだこれ~」って驚いた。

●これまでに何本のPRSを入手されました?

一番持っていた時で25本くらいかな…。当時のPRSって外観がほとんど同じで、でも良く見ると「あれ? 22フレットと24フレットがある…」ってなって。だったら全てのモデルをちゃんと確認して、一番好きなモデルを見つけよう…」って思ったわけ。そのためには違うモデルを買って、ちゃんと弾かないと分かんないでしょ。「キターは手に入れて弾いてみる」というのが僕のモットーで、それで自分に合わなければ手放す(笑)。PRSってスケールが25インチでしょ。僕ダンエレクトロとかゼマイティスも好きなんだけど、それもみんな25インチなの。

●最も気に入ったモデルは?

デタッチャブルのCE-22が一番好き。あのタッチの良さと、22フレットモデル特有の響きの良さがいいね。24フレットよりいくらかサステインも長いし。

●メインのウルトラQフィニッシュのギターもCE-22ですね。

そうそう。あのギターは元々ブラックサンバースト・フィニッシュで、中古で安く手に入れたんだけど、すっごく地味だから「リフしちゃえ」って(笑)。そこからPRSの改造が始まったわけ。あれはパーツも全部換えたの。ペグ違う、ピックアップ2個(ドラゴンⅡ)違う、センターにホットレイルを追加して、ナット、フレットも違う、ブリッジもコントロールも全部違う。どうせやるならもっと個性的にしようと思って、ウルトラQフィニッシュにしたんだけど、すっごい気に入ってる。あれは、クルーズのボトムズアップに同じようなフィニッシュがあるんだけど、僕それを持ってたの。PRSにはいろいろ綺麗なフィニッシュがあるけど、流石にこんなにカラフルなのはないから「これだっ」って(笑)。で、渋谷のフーチーズに行ってリフィニッシュをお願いしたわけ。出来上がったらもう大満足 あの特殊な塗装はかなり作業が複雑で、できる職人さんが日本に一人しかいないらしい。その時に指板のインレイをバーズアイメイプルで作り直してもらった。ネックのインレイは別の人にお願いしたんだけどね。勝手な僕のフルオリジナルモデルになった(笑)。ウルトラQシリーズは3本作ったんだけど、ツアーがないときにフーチーズに飾っていたら、その時ちょうど来日していたポールさんとオリアンティがフーチーズで僕のウルトラQをみつけで「なんだコレっ⁉」ってなって(笑)。ポールさん、あまりの出来の良さに喜んで、かってにヘッド裏に自分のサインをして帰った、しかも3本とも。僕のギターなのに(笑)。その時オリアンティが「このカラフルなPRSが欲しい~」って言ってた。でもこの3本は、以前PRSから「資料としてこのギターの写真を撮らせて欲しい」って頼まれて協力したことがあったので、ポールさんはすでに知っていたと思うけど。

●PRSのプレイアビイリティに関しては?

春夏秋冬いつでもどこでもそのまま使えるギター、と言う意味でも素晴らしいね。とにかくネックが動かない。浜崎あゆみのツアーで北海道から沖縄まで行くでしょ、あのウルトラQはメインギターで何年もツアーで使ったけど、ネックのトラブルがない。雨でも晴れでも野外でもOKだもん。そういえば、今日持ってきた白くリフィニッシュしたスワンプアッシュ・スペシャルのことだけど、近藤真彦の武道館ライブの時にあれを使ったの。ローディがあのギターをステージにいる僕に手渡して曲が始まる、というシーンがあって、ローディがギターを持ってステージに上がったんだけど、階段でつまずいて勢いよくコケたの。しかもギターのネックで自分の全体重を受けたもんだから、ネック裏にボッコリと大きな窪みができた(笑)。でも本番中だから、とりあえずギターを受け取って「ジャ~ン」って弾いたら、「あれ? チューニング大丈夫じゃん?」って(笑)。

●お持ち頂いた6本のギターの特徴やお気に入りのポイントを教えて下さい。

まず、これがさっき言ったCE-22を大改造したメインギターのウルトラQのNo.1です。とにかく良く使っているギターで、もう何度もポットを換えてる。凄く気に入っている。

こっちはウルトラQのナンバー3、サブギターだね。このフィニッシュ見てよ、綺麗でしょ これもすごく気に入ってる。No1もそうなんだけど、センターにダンカンのホットレイルを追加してます。

3本目は、ステージでローディがこけたスワンプアッシュス・ペシャル。元々は知り合いのデヴィッド・ラルストンっていうボトルネックが上手いブルースギタリストが持っていたんだけど、このモデルは本来メイプル指板しか無いんだけど、これは何故かローズウッド指板なの。で彼がしばらくしてギターを手放すというので、買い取って白くリフィニッシュしたの。ホワイトボディに合わせて、ポジションマークも白く変更して。

4本目は、90年代の初頭に数年間だけ生産されたスタジオ・メイプル・トップっていう珍しいモデル。僕のは92年製だけど、92年にはすでに生産が終了しているハズなんだけどな…。PRSなのに、シンシンハムっていうピックアップレイアウトが凄く気に入ってる。ポジションマークも初期のムーンインレイだしね。

5本目は、カスタム24の10トップ。これは5ウェイのロータリースイッチがちょっと分かりにくいので、自分で10目盛りのツマミを5目盛りにアレンジしてる。この方が全然分かりやすい。もうプラモデルだよね(笑)。ピックアップはドラゴンⅡに交換してる。

最後はサンタナSEを自分でメタルフロントにアレンジしたモデル。僕ゼマイティス大好きだから、そのイメージでフロント部分をアルミ板をカットして自分で手作りしたの。見て見て、バードインレイもアルミをカットしているんだ。ドロップチューニングの曲とかでよく使ってる。

●今後のPRSに関して、期待されることは?

PRSは、デビュー以来独自な路線で製品を発売して来たけど、35年経ってすでにスタンダードなギターになっているよね。それは素晴らしいことだと思う。僕としては、みんなが欲しがるギターというより「えっ、PRSってこんなギターも作っちゃったんだ」って思えるような、マニアックなギターを作ってくれたら嬉しいですね(笑)。

 

Collection

 

PRS CE-22 / Ultra-Q No.1

1988年に誕生したボルトオンモデル、CE-22(デビュー当時の名称はクラシック・エレクトリック)。野村が最も気に入っているモデルである。センターにセイモアダンカンのホットレイルを追加し、ハムバッカーを自社のドラゴンⅡに交換。フィニッシュはもちろんのこと、あらゆるパーツ類、インレイに至るまで、徹底的に改造を行っている。長年ライブで愛用するギターの筆頭となり、彼のアイコント的な存在でもある。1993年製。

 

PRS CE-22 / Ultra-Q No.3

ウルトラQシリーズのNo.3。「ウルトラQ」は1966年に放送された特撮怪獣TVドラマだが、マルチカラーのサイケデリックボーミットフィニッシュがそのタイトルバックの模様に似ていることから野村がそう呼んでいる。No.1は93年製のアルダーボディだが、こちらはマホガニーボディの98年製。塗装にはシルバーやスパークルがふんだんに使用され、No.1やNo.2以上に華やかな仕上がりとなっている。バードインレイにはミラー素材を使用。

 

PRS Swamp Ash Special 

ボディにスワンプアッシュ、ネックにメイプルを採用したスワンプアッシュ・スペシャルが登場したのは1996年。このモデルはメイプルフィンガーボードが基本だが、写真はローズウッド仕様のレアモデル。知人のギタリストから譲り受けた時はヴィンテージチェリーだったが、鮮やかなホワイトにリフィニッシュ。ついでにムーンインレイをホワイトのバードインレイにアレンジするなど、かなりややこしい改造を施している。2002年製。

 

PRS Studio Maple Top 

PUレイアウトがオリジナルでS/S/Hという、PRSにしてはかなり珍しい仕様を採用したスタジオ・メイプルトップ。1980年代末~91年までの短期間に発売されたモデルだが、写真は何故か92年製。こういうレアモデルを見逃さないところがいかにも野村らしい。シングルコイルは、自社のホット・ヴィンテージ・トレブルがマウントされている。当時姉妹モデルにオールマホガニーボディのスタジオというモデルもあったが、同時期に姿を消した。

 

PRS Custom 24 10 Top

深みのあるパープルカラーを通してメイプルの美しい杢目が確認できるカスタム24。PRSはデビュー当初から杢目の美しさに拘りがあり、ポールのヴィンテージ・レスポール・スタンダードに対するリスペクトが感じられる。ピックアップのカバーは、ギブソンのパーツだが、ピックアップ本体はどちらもドラゴンⅡに交換されている。野村は「PRSはボディトップのカーブ、特にエッジ部分の跳ね返りの形状がとても重要だ」と熱く語っている。1992年製。

 

PRS Santana SE / Metal-Front

2001年に発売されたサンタナSEを大胆に改造したメタルフロントバージョン。お気に入りのゼマイティスの外観を意識し、またステージ映えも考慮してアレンジしたようだ。センターにはやはりセイモアダンカンのホットレイルを追加し、ピックアップやパーツ類をグレードアップしている。ヘッドにはプライベートストックを彷彿させるインレイを追加、フィンガーボードのバードインレイもアルミで製作し直すなど、正に拘り抜いた1本。

 

Interview & Text by MINORU TANAKA
Photo by TOMUJI OHTANI

 

※本記事は月刊 Player 2020年11月号特集『PRS GUITARS 35th Anniversary 〜ギターに宿る“進化と成熟”のスピリッツ〜』からの転載です。特集の完全版については、下記Player直販ページをチェックしてみてください。

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