フェンダー プレシジョン・ベース/ジャズ・ベースという“エレクトリック・ベースの完成形”を手掛けたレオ・フェンダー。彼は自身が生み出した偉大なる発明に対して、スティングレイでどのように向かい合おうとしたのだろうか…。初期スペックを備えた1978年製スティングレイの各パーツを解説しよう。その答えは各パーツに込められたアイディアから紐解くことができる。
[Headstock]
スティングレイを始めとするミュージックマンのベースには、チューナーを3対1に配置したオリジナル・ヘッドストックが使われている(その一方で、70年代のミュージックマン・ギターは片側に6個のチューナーが並んだフェンダー・タイプだった)。これはフォレスト・ホワイトのアイディアで、チューニングの際に手が届きやすくするためである。また、フェンダー・ベースと同じく、チューナー・ポスト/ナット/ブリッジ間の弦が直線的になる位置にチューナーを配置する“プル・ストリング・デザイン”に沿って作られている。“スティング・レイ(エイ)”というモデル名の出所は明らかにされてはいないが、同社初となるこのベースのヘッドストック(もしくはピックガード)に由来するものかもしれない。トラスロッド・ナットはヘッド側に取り付けられており、この部分の強度を稼ぐためにロッド・ナットは小型化され、ナット/チューナー間が少し厚くなるように加工されている。
[Tuner]
当時のミュージックマン・ベースのチューナーは、フェンダー時代と同じくドイツのシャーラー社で製造されていた。その外観はトラディショナルでシンプルな構造だが、ツマミが付いたウォーム・シャフトを適度なテンションでカバー側を押さえるための板バネがセットされている。このチューナーには、レオ・フェンダーが考案しパテントを取得した特殊なシャフトが使われている。それまでのベース・チューナーのシャフトは円柱形だったが、このチューナーのヘッド・フェイスから飛び出たシャフト部分は、根本から先端にかけて逆テーパーが付くような形状に加工されている。このシャフトに弦を張ると、弦はヘッドに接するように巻かれていき、ナットへと伸びる部分は常にシャフトのつけ根近くにくるので、ナットをネック側へと押さえつけるように弦のテンションが掛かる仕組みになっている。その結果、弦は外れにくく振動も漏れにくくなり、トーンとサステインを向上させている。
[Neck-body Joint]
初期型スティングレイ・ベースのネックとボディは3本の大型ボルトでジョイントされており、弦高を調整するためのティルト機構が盛り込まれている。70年代の一部フェンダー・ベースにもティルト機構は盛り込まれたが、ネックのジョイント部がずれてしまう事例も報告されていた。それに対して、加工精度の高いスティングレイ・ベースではジョイント部がずれるという報告はなく、原因はティルト機構ではなく加工精度だったことがわかる。スティングレイ・ベースのティルト部分は、シンプルで精度を高めやすくデザインされている。3本のボルトはティルト部分とは無干渉になっており、ティルト部分はボディに埋め込まれたイモネジ付きのコイン型パーツとネックに埋め込まれたネジ受けパーツで構成されている。両パーツはフェンダーのようにボルト/ナットでジョイントされてはおらず接しているだけなので、ティルト・パーツに影響されずにジョイント加工を行うことができる。
[Pickups]
レオ・フェンダーが開発した初のダブル・コイル・スタイルのピックアップで、過去のフェンダー・ベースのように2本のポールピースの間に弦が位置するのではなく、各弦の真下に3/8インチ径(約9.5ミリ)という太いアルニコ・ポールピースがセットされている。またポールピースは1インチ(約25.4ミリ)もの長さがあり、磁界を立体的なものへと導いている。上面は1/4弦に対して2/3弦が少し高くなるように調整されており、スティングレイならではの強いアタックは、このポールピースによるところが多きい。SPNコイルが巻かれたファイバー製ボビンは、ギブソン・ハムバッカーのように薄く幅広い形状であることも特徴となる。70年代末頃からポールピースの長さはボビンの裏側からほとんど飛び出ない程度に短くなった。発売の極初期モデルを除いて、2つのボビンはパラレル(並列)にワイヤリングされたハムバッキング・ピックアップになっている。
[Active Tone Control]
70年代のスティングレイ・ベースには、ボリュームに加えて、現在のような3バンドではなくトレブル/ベースで構成された2バンドのアクティヴ・トーン・コントロールが組み込まれている。また開発はレオ・フェンダーではなくトム・ウォーカーが主導したといわれている。一般的な市場で流通した初めてのアクティヴ・トーン・コントロール仕様のベースとなったスティングレイは、まるでアンプのトーン・コントロールが手元にあるような幅広いトーン作りが可能で、ベース・サウンドを新しい時代へと導くことになった。エレクトロニクスはハイ・インピーダンス・ピックアップにアクティヴ・トーンを付加する形でデザインされており、ボリュームには25kΩポット、ブースト/カットを行うトレブルとベース・トーンには1MΩ、100kΩのポットが使われ、基盤全体が黒い樹脂で覆われている。ボディ裏側にセットされた9Vバッテリーで数ヶ月以上駆動させることができる。
[Bridge]
70年代末まで使われたブリッジは、弦をボディ裏側から張るデザインになっている。スティール・プレートを折り曲げて作られたベース・プレートは、フェンダー時代からのデザイン・スタイルに沿ったもので、プレート前方には各弦のミュート機構(写真のベースはスポンジが欠品)が組み込まれ、後方には”Music Man PAT. PEND”の文字が打刻されている(パテントは1977年に認可された)。ブリッジ両端のボディには2つのブラス製アンカーが埋め込まれており、2本の太いスティール製スタッド・スクリューで強固に取り付けられている。また、スタッドは4個のブリッジ・サドルを両側から挟み込む位置にセットされ、サドルが左右に動いてしまうのを防止している。ステンレス製のサドルは横倒しの筒型になっており、サドル上下用のイモネジはサドル下側部分にネジ止めされており、サドル上側の穴は6角レンチは通せるが、イモネジが飛び出ることのないサイズで作られている。
Text by JUN SEKINO Special Thanks to イシバシ楽器 御茶ノ水本店
Player2020年9月号にスティングレイ特集掲載!